(本記事は、鳥飼重和氏の著書『慌てない・もめない・負けない経営』日本経営合理化協会出版局の中から一部を抜粋・編集しています)

国は富裕層の財産を狙っている

隠し財産
(画像=olrat/Shutterstock.com)

ここ数年、国税当局はいかにして企業や社長、医者などの富裕層から税金を取るかを徹底して考えています。少子高齢化のもとで医療・介護など巨額な歳出が必要な上に、消費が思ったほど増えないため、お金のあるところから税収を確保しようとしているのです。

その一つに、富裕層が海外に隠している財産を発見しようとする動きがあります。たとえば、租税条約によってアメリカをはじめとした多数の国や地域と金融情報がつながりだし、その情報を得る仕組みが動き始めました。その結果、海外の隠し財産が、税務当局に把握されるようになりつつあります。

儲かっている企業や富裕層は、財産をしっかり管理して適正に先手を打つ必要があります。対策を怠っていると税務リスクに襲われ、多額の税金を払わされたり、マスコミに取り上げられたり、刑事事件になったりと、後から悔くやむことになります。

従来であれば、海外で収入を得た場合に税金を払いたくない人は、日本にもち込まずそのまま置いておけば、それで隠すことができていました。それが現在では、国税当局に筒抜けになりつつあり、脱税などの刑事事件としての疑いもかけられるので、極めてリスクの高い危険な行為になっています。

たとえば以前は、「海外にもっている預金は二億円です」という「国外財産調書」を国税当局に提出すればそれで済んでいたのが、今は、外国の金融機関からの情報で「実際は5億円の預金がある」ことがバレてしまいます。当然、国税当局の担当官は、「調書との差額の3億円は何だ?」と疑います。

差額がある以上、何らかの方法で所得が発生しているはずです。海外で働いて得たものなのか、海外で株や土地などの取引をしたのか、親などから相続や贈与を受けたのか、あるいは、日本からもち出したものなのか。いずれにしても日本国籍で日本に生活の本拠があるほとんどの日本人は、たとえ海外で稼いだとしても、もらったとしても、日本で税金の申告が必要です。

すると、「お尋ね」という文書で、働いて得たのなら所得税、もらったものなら贈与税などの修正申告をすすめてくるか、金額が大きく、しかも脱税が疑わしいとなれば、「税務調査」でどのようにして三億円をつくったかを徹底的に調べにかかります。隠し続けることはほぼ不可能です。

日本国内でもマイナンバーが浸透すれば、今までバラバラだった現金や株や不動産などの財産状況がすべて連結して、一元的に国税当局が把握できるようになります。さらに、二〇一六年一月より、所得金額が二000万円を超えていて、3億円以上の国内財産をもっている富裕層は、「国内財産債務調書」を税務署長に提出しなければならなくなりました。今まで通用した財産隠しの手法がどんどん使えなくなってきています。

この流れは日本だけではありません。ヨーロッパやアメリカのほうがもっと進んでいます。世界的な流れで、国税当局が隠し財産を暴く時代になってきたのです。

税務対策は正々堂々とおこなう

たとえば世界に衝撃を与えた「パナマ文書」のように、隠していた所得や財産が見つかるとそのことが露見し、その情報が大げさな形で社会に拡散し、その結果、信用失墜や刑事事件化し、さまざまな社会的ペナルティを受けます。

今後、もっと技術が進めばいろいろな情報をAI(artificial intelligence=人工知能)が収集し、「申告に矛盾あり」「所得を隠している可能性(大)」のような判断を自動でしたり、街中に設置されたカメラなどで個人の行動が追跡されるようになってくるかもしれません。ですから、これからの自分の身を守るための税務対策は、「上手に隠す」ことを考えるのではなく、「正々堂々とおこなう」ことが正解になります。

国税当局に指摘されそうな部分を、先に自分に有利な証拠をそろえ、誰がみても、「適法」と思える自然な流れをつくり、どこからつっ込まれても平気なようにしておくのです。

過度といえるほど監視網が発達してくる今後の情報化社会を考えると、経営者や富裕層、有名人が、財産の安全・安心を確保するには、情報や知識、ノウハウをもつ参謀的な本物の専門家を活用する必要が出てきます。水や空気にお金がかかる時代です。まして財産の安心・安全には、それなりの費用がかかります。

税金問題も戦わずして勝つが上策

税金問題も、国税当局と争いになってから対応するのでは手遅れです。先手を打ち、いかにして争いを避け、「戦わない」ようにするかが、これからの税務戦略の常識です。

通常、国税当局との争いは税務調査の時に起こります。その時、身近にいる税理士に相談することが多いと思いますが、上手に対応できず逆に状況が悪化してしまい、私たち税務専門の弁護士に助けを求めてくることがあります。

中堅部品メーカーW社では、三年に一度は税務調査が入っていました。

W社では税務調査があると財務部門の吉岡課長(仮名)が担当し、顧問税理士がアドバイスするという状況でした。W社の方針として、調査を穏便に済ませるために、調査官の要求をなるべく受け入れていました。そのため、調査官の過大な要求を受け入れる必要に迫られる吉岡課長は精神的に追い込まれることも多く、税務調査前後にはげっそりとやせ細り、一度は胃潰瘍になって入院したこともあります。

そのW社の税務調査を、数年前から当事務所が担当するようになりました。ここでは結果だけ申しあげます。吉岡課長は、我々の指導で税務調査対応が楽になり、胃潰瘍になるようなプレッシャーや不安から解放されました。「税務調査が、こんなに楽なものとは思いませんでした」と笑顔でおっしゃるほどです。

実は、これが本来の税務調査のあり方です。我々は、国税当局の調査官と戦うための方法を指導したのではありません。調査官と戦わないために、税務調査に適切に協力する方法を指導しました。税務調査に詳しくない税理士とは、アプローチがまったく違います。

税理士は、税法や税務調査に関する正しい知識を習得する機会が少ないため、税務調査の件で相談を受けても調査官の言いなりになってしまうか、逆にケンカ腰で対応してしまい、最悪、依頼者である社長に不利益な状況をつくってしまいます。

それがこのように、税務調査にある程度詳しい弁護士が入るだけでも、調査の様相が激変します。

慌てない・もめない・負けない経営
鳥飼重和(とりかい・しげかず)
日本経済新聞社が調査した「企業が選ぶ弁護士ランキング=税務部門」。第1回(2013年)及び第2回(2016年)いずれも総合1位。2017年「金融・ファイナンス部門」5位。世界の法曹界や企業が注目する評価機構チェンバース「2018年弁護士ランキング=税務部門」筆頭に選出。勝訴が困難と言われている税務訴訟で、2008年から10年の3年間で、35事件中25件を勝訴。輝かしい実績をもつ税務訴訟の開拓者。現在、「社長と会社を守るには、想定外の事態への事前対応・準備が必要」と、従来からの訴訟中心の紛争解決型ではなく、経営と法務を統合したリスク回避型の戦略提案を活動の中心に据える。

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