近年は、年間100社前後の企業がIPO(新規公開株式)により証券市場へ上場している。2022年度におけるIPO企業の社長の平均年齢は51.2歳と2011年度の52.3歳と比較して若年化しているのが特徴だ。本企画では、市場に新しい風を巻き起こすことが期待されるIPO企業の代表者に企業概要や上場のねらい、今後の展望についてインタビュー形式で実施した。

株式会社ネットプロテクションズは、近年注目されている後払い決済サービスBNPL(Buy Now Pay Later、)のパイオニアとして2002年3月から提供している企業だ。近年においては、決済サービス市場のリーディングカンパニーとして日本のみならず台湾やベトナムなど世界展開も実施している。

決済事業において非常に難しいとされる「与信通過率の高さ」「未払い率の低さ」を両立するサービスで市場を変革およびけん引しているのが強みだ。組織の強さの根源となるのは、培ってきたBNPLの知見や仕組みだけでなく上場企業としては非常に珍しい「ティール組織」の体制にもある。

ティール組織にしたことで社員が主体的に考えて動き、新しい企画やサービスの拡充が期待できるのだ。今回は、同社を立ち上げ決済市場のリーディングカンパニーにまで育ててきた代表取締役の柴田紳氏に独自の強みや上場してからの変化、今後の展望についてうかがった。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

株式会社ネットプロテクションズ
柴田 紳(しばた しん)――株式会社ネットプロテクションズ代表取締役社長
1975年8月1日生まれ。福岡県出身。1998年3月に一橋大学卒業後、同年4月に日商岩井株式会社(現・双日株式会社)に入社。2001年5月にIT系投資会社であるITX株式会社に転職し、株式会社ネットプロテクションズの買収に従事。同年11月に株式会社ネットプロテクションズ出向取締役、2004年4月に同社代表取締役に就任した。

2017年、アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー特別賞を受賞。日本初のリスク保証型後払い決済「NP後払い」を創り上げた先駆者。
株式会社ネットプロテクションズ
2000年1月に創業。2002年3月、BtoC通販向けにBNPL決済サービス「NP後払い」、2011年4月BtoB取引向けに「NP掛け払い」サービスの提供を開始した。他にもBtoC向けに通販のみならずデジタルコンテンツ・実店舗などで利用可能なBNPL決済サービス「atone(アトネ)」(2017年6月)、台湾向けBNPLサービス「AFTEE(アフティー)」(2018年8月)などのサービス提供を開始。2022年3月には、全サービスの累計取引件数が3.7億件を超える。

主要株主の株式会社ネットプロテクションズホールディングスは2021年、株式会社ジェーシービーや株式会社インフキュリオン、シンガポールの投資運用会社Pavilion Capitalなどを引受人とした第三者割当増資を行い、2021年12月に東京証券取引所市場第一部へ上場を果たす。

目次

  1. 株式会社ネットプロテクションズの事業概要と沿革
  2. 株式会社ネットプロテクションズの競合他社にはない強み
  3. 上場までの道のりと、その後の変化
  4. 決済市場の課題と動向
  5. 株式会社ネットプロテクションズの今後の展開
  6. 株式会社ネットプロテクションズから皆さまへのメッセージ

株式会社ネットプロテクションズの事業概要と沿革

─ 現在の事業内容についてお聞かせください。

株式会社ネットプロテクションズ代表取締役社長・柴田 紳氏(以下、社名・氏名略):私たちは、2002年からBNPL(Buy Now Pay Later、後払い決済サービス)をスタートしました。BNPLは、今でこそ世界中でブームのようになっていますが、20年以上前からこのサービスを展開しているのは、私たちだけなのではないかと思います。

事業の主力サービスとしては、年間ユニークユーザー数1,500万人超となるEC・物販向けの「NP後払い」、BtoB向けの「NP掛け払い」、デジタルコンテンツなどの無形資産を取り扱う「atone(アトネ)」などです。サービスは、国内のみならず台湾でも展開し急速に伸びており、2022年4月にはベトナムに子会社を立ち上げるなど世界的な事業展開を進めています。

▽ネットプロテクションズのBNPLサービス

─ 御社はBNPL決済サービスのリーディングカンパニーとして事業を展開されています。この事業を始められたきっかけをお聞かせください。

柴田:私は、日商岩井株式会社(現:双日株式会社)という総合商社で経験を積んだあとベンチャーキャピタルのITX株式会社に転職しました。そこで2001年に買収したのがネットプロテクションズです。買収して出向してみたところ、後払いサービスの事業を謳っているにもかかわらず、事業そのものがまだ存在していない状況を目の当たりにすることになりました。

そこで当時のネットプロテクションズを育てる覚悟をして雇われ社長としてスタートしたのが始まりです。ネットプロテクションズに来たときはまだ26歳で、社会人としてだけでなく、決済サービス業界についても「ド素人」でした。

さらに「世の中にまだ存在しないサービスをつくろう」というステージでしたから、メンバーを含めて支持してくれる人がほとんどおらず、大変なことばかりで毎晩家に帰って泣くような生活でした。

─ そこまで辛くても続けられた理由はどこにあるのでしょうか?

柴田:まだ20代後半でしたので、とにかく仕事がやりたかったことが理由の一つだと思います。たしかに苦しかったのですが、「仕事ができる」ということ自体が楽しかったのです。また雇われ社長だったこともあると思います。大きな責任感はありましたが、ある意味リスクはなかったので、とにかく成長させるために進み続けました。

2008年にようやく黒字化してから会社としての明確なビジョンを描くことができ、今では業界ナンバーワンにまで成長できました。

株式会社ネットプロテクションズの競合他社にはない強み

─ 他社にはない御社ならではの強みはどこにあるのでしょうか?

柴田:主に3つあると思います。まずは「与信審査へのこだわり」です。後払い決済は、すごくデリケートな一面があります。例えば審査を厳しくして怪しい人のサービス利用をすべて防げばリスクを下げやすいのですが、そうすると売り手はお客さんを減らされてしまいます。この審査の精度を高めて本当にリスクのあるものだけを防ぐことは非常に難しいです。

弊社は、そういった背景下でも20年以上かけて「与信通過率の高さ」と「未払い率の低さ」を両立してきました。

▽「与信通過率の高さ」と「未払い率の低さ」の両立

2つ目は「効率性の高いオペレーション体制」です。弊社では、月間500万件以上の請求に対応しているので、問い合わせやイレギュラー対応も少なくありません。しかし非常に高効率かつ自社内で対応が可能です。

3つ目は、「ティール組織」体制です。上場企業でありながらティール組織を築いている企業は、他にあまりないのではないでしょうか。ネットプロテクションズには階層、つまり上下関係がありません。私は、新しい企画やサービスの広がりは「ボトムアップ体制があってこそ叶う」と考えています。

ティール組織では、とにかく若者が柔軟に自分の意思でトライできることが大きなメリットです。またトップダウンで起こりがちなマネージャー層が個人の色を出して、派閥ができるなど部署間で摩擦が起こることもありません。

上場までの道のりと、その後の変化

─ 上場するにあたって、大変だったことはありますか?

柴田:上場するにあたっては、お金の面でも人の面でも上場作業にリソースが割かれて忙殺されたため、未来で実現したいことに向けて準備をするリソースがありませんでした。よく「上場前になにかやっておいたほうが良いことはありますか」と聞かれますが、「上場だけでなく上場後の準備も事前にしておいたほうが良い」と答えています。

─ 上場してどのような変化がありましたか?

柴田:リソースが割かれて大変だったのは事実ですが、上場してからは大きなプラスの効果を感じています。まず社会的な信用が強まったので、ECや大手銀行、地銀、カード会社など幅広い会社とアライアンスを組めるようになりました。アライアンスネットワークは、今後の事業を何倍にも何十倍にもする資産です。

また将来に向けて投資がしやすくなったことも大きな変化だと思います。20年間親会社がいる状態でしたので、例えば一般的なスタートアップのように資金調達をして急速に成長することができませんでした。上場してからは、むしろ「投資をしてでも前に進むスピードを上げてほしい」といわれるようになりました。

▽成長戦略でも重要となるアライアンス

決済市場の課題と動向

─ 決済市場が直面している課題と今後の動向についてお考えをお聞かせください。

柴田:経済界全体としてインターネットやIT技術の地殻変動がようやく本格化したと捉えています。技術はあってもプレイヤーが固定化された業界は多くあり、特に決済業界は典型的でした。近年は、例えばPayPayなど新しい仕組みが登場し、プレイヤーが入れ替わることで社会が変わるスピードが早まっています。

弊社は、決済市場のなかで変革を起こすプレイヤーです。今まで多くの企業や人が嫌々ながら小口請求をしてきました。そのリスクや手間をすべて賄えるのが弊社です。特にBtoBの「NP掛け払い」は、社会的な意義が大きいと思います。日本には、アナログな請求支払いがまだまだたくさん残っているため、企業側に大きな負荷がかかっていることも少なくありません。

2022年時点で「NP掛け払い」の年間利用社数は約46万社に上っており、多くの小口請求の負荷を弊社が請け負っている状態です。日本は、人口減少も叫ばれていますから人にかかる負荷を減らせる事業は、社会的に価値が高いと考えます。

株式会社ネットプロテクションズの今後の展開

─ 御社は「つぎのアタリマエをつくる」というミッションのもと事業を展開されています。今後成し遂げたいこと、生み出したい世界観があればお聞かせください。

柴田:大きく2つの取り組みがあります。1つ目は「事業で社会を変えること」、そして2つ目は「ティール組織で成果が出せることを証明すること」です。弊社が進めるBNPL事業は、後払いでも小口でもリスクと手間をなくし、売り手と買い手をつなぐ役割を担っています。まさに「つぎのアタリマエをつくる」ミッションを具現化している事業です。

今後も現在の事業に関わらず、社会のゆがみと非効率を減らす展開をしていきたいと思っております。

▽ネットプロテクションズのミッション

またティール組織で成果を出せることを組織として証明したいです。この「つぎのアタリマエをつくる」というミッションもトップダウンで決めたのではなく2012年にいた50名ほどのメンバー全員で決めました。「上司部下という言葉もない」「出世という概念もない」「人事評価は完全な360度評価」「配属や異動も本人が決める」という組織体で成立しているのは相当珍しいと思います。

このティール組織を支えるのは、一定のシニア層が組織に共感して若手を支えてくれることと「カタリスト」の存在が大きいです。「カタリスト」は、権限はないが責任を追うポジションとなります。このポジションは、能力的にも人格的に成熟している人でないとできません。今後もティール組織を下支えしてくれるメンバーを育成して増やしていきたいです。

ティール組織は、運営が非常に難しいといわれますが、私は大きな可能性があると思っています。この体制で成果を出すことで、大きな会社でも優れた結果を出し続けられることを世界に示したいです。

▽ネットプロテクションズのティール組織

株式会社ネットプロテクションズから皆さまへのメッセージ

─ 読者の皆さまにメッセージをお願いします。

柴田:20年以上かけて築き上げた「与信通過率の高さ」と「未払い率の低さ」を両立するBNPL事業の価値は、中長期的に見て社会から求め続けられるものです。また世界のなかには「まだまだアナログ決済をしている」「アナログ決済しか選択できない」という企業も多いので、市場は無限に広がっていると思っております。

「つぎのアタリマエをつくる」というミッションのもと、社会的価値の提供と今後の成長という両側面からご期待に添えるように企業として挑戦を続けていきたいです。